スタニワフ・レム睡眠

読んだ本とか見た映画とかの感想、他にも虚構とも妄想ともつかぬことをつらつら語ろうかと

白鯨

スタバに行ったときに「知っているかい?スターバックスの店名の由来はメルヴィルの白鯨にちなんでいるって」とかなんとかその手のウェットに富んでる風なことを言いたいがためにこの本を手に取った。それが最初の理由である。

この本は何と表現すればいいのだろうか?中心がどこにでもあってどこにも表面のない球体?19世紀以降の我々のための新時代の聖書?ともかく一言で表現しようとするとそんな感じだ。

読中この本をこのように捉えた。この本は初代ゴジラだ、モービィ・ディックは実態を持った怪物であると同時に戦争・国家のメタファーでもあるんだ。さらに続けて読むとこのように捉えた。この本は旧約聖書だ。物語でありつつ百科全書的な書かれ方をしている(聞いた話によると旧約聖書はそれが編纂された当時は百科全書の役割も果たしていた)。さらに続けて読んでいきラストシーンにさしかかるとこのように捉えた。この本は虚航船団だ。多種多様な人間のカリカチュアとも言えるべきキャラクター達が大きな流れの前になすすべなく滅びさってゆく。そしてエピローグまで行着きその全体の構造を知りついに理解した。この本は、これらの自分が感じた直感によるものも含めた膨大な量の象徴を内包しているものだということを。


白鯨は円環構造、枠物語、などをはじめとした様々な手法、視点を輻輳的に集めてそれらを束ねることによって構成されている。それらがどのような方法で作品に取り入れられたか、については岩波版の解説を読んでもらえば解るとおもう。

恐らくメルヴィルが書きたかったものは実態のある鯨だし、国家のメタファーであるし、宗教や信仰であるし、歴史の循環性でもあるんだろし、それ以外のものでも何かしらの複数のそして横断的な巨大なテーマだろう。あまりに多くの書くべきテーマのあったメルヴィルはそれらを表現するために円環構造や枠物語を持ち出したのだろう。円環構造は作品に与えられたテーマを無限に続けさせる機能があり、枠物語にはテーマを圧縮し俯瞰させる機能がある。

それによってこの本を読むがわはどのようなテーマも見つけることが出来るし、この本は会わせ鏡のように自ずから象徴を形成していくことが可能になっている。